本件を過去類を見ないほど困難にしていたのは、「極めて限られた時間制限」と「一部抵当権(共同担保の切り離し困難)」という二重の障壁でした。
対象物件を含む複数の土地・建物に対して一体で抵当権が設定されており、金融機関側からすれば「特定の物件だけを切り離して売却し、しかも抵当権を抹消する」ことは担保価値を著しく毀損させる行為にあたるため、通常では門前払いに近い扱いを受けます。
さらに、任意売却の実務において「売却代金から債務者の手元に治療費・ホスピス費用を現金の形で配分・確保する」という行為は、債権者の回収原則から大きく外れるため、金融機関の本部審査を通過させることは至難の業でした。
ここからの実務は、まさに文字通りの難航を極めました。 金融機関の担当窓口、保証会社、債権回収会社(サービサー)の法務部との間で、連日にわたる書類の修正と電話協議を重ねました。 当初は「前例がない」「内規で認められない」と頑なに拒否され、何度も交渉が決裂しかけました。 病状が進む高尾様からの悲痛な連絡を受けるたび、相談員一同「絶対に諦めるわけにはいかない」と連日深夜まで対策を練り直しました。
物件の再査定、近隣取引事例の洗い出し、残余担保の保全策、そして弁護士を交えた法的な覚書案の作成など、持てる知恵とノウハウのすべてを注ぎ込み、分厚い提案書を持って何度も債権者本部へ直接交渉に赴きました。
交渉開始から数週間、粘り強い論理提示と人道的な訴えが実を結び、奇跡的に債権者本部から「一部抵当権抹消の承諾」および「売却代金からのホスピス費用確保(特例控除)」という前代未聞の合意を取り付けることができました。
合意取り付けと同時に、水面下で進めていた提携先ネットワークを通じて即座に買い手を確定。競売の申立期日ギリギリの段階で決済を完了させました。
これにより、高尾様は念願であったホスピスへの入居費用を無事に確保され、迅速に医療ケアを受けられる環境へと移ることができました。
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