住宅ローンを組むとき、多くの人が35年という気の遠くなるような年月の契約を結びます。
しかし、現実問題として「35年後の未来」を正確に予測できる人など一人もいません。
誰が世界的な感染症の流行を予測できたでしょうか。
勤務先の突然の業績悪化、予期せぬ病気、ケガ、家庭環境の変化など、どれほど真面目に綿密な計画を立てて暮らしていても、想定外の事態は誰の身にも降りかかります。
35年間、何事もなく平穏に完済できることのほうが、むしろ奇跡的なことなのかもしれません。
購入した家は登記上、確かにあなたの名義です。
しかし、住宅ローンが残っている間は、金融機関が第1順位の抵当権を持っています。
厳しい言い方をすれば、「滞納なく返し続けている間だけ、住むことが許されている」という状態に近いのが現実です。
もし何かのきっかけで返済が滞れば、金融機関は法的な権利を行使し、最終的には家を差し押さえて競売にかけることができます。
35年ローンを組むということは、その長い期間ずっと「担保権を実行されるリスク」を背負い続けているということでもあります。
予期せぬトラブルでローンの支払いが厳しくなること自体は、決して恥ずかしいことでも、個人の計画性の甘さだけのせいでもありません。社会や環境の変化は、個人の力ではどうにもならないからです。
本当に問題なのは、トラブルが起きた後の「行動のスピード」です。
任意売却の現場で多くの方のご相談を受けていて強く感じるのは、競売に追い込まれてしまう人と、任意売却で再スタートを切れる人の決定的な違いは、「不都合な現実を直視して前倒しで動けたかどうか」という点です。
人は都合の悪いことや見たくない現実があると、無意識に判断を後回しにしてしまいがちです。
「来月になればなんとかなるかもしれない」
「銀行からの督促状を開けるのが怖い」
そうして先送りを重ねている間にも、確実に時間は減っていきます。
返済が苦しくなった初期段階であれば、銀行への返済条件の変更相談や、一般市場での通常売却など、選べる選択肢がまだ手元に残っています。
しかし、対応を後回しにして「期限の利益」を喪失し、保証会社による代位弁済が進んでしまうと、残された道は競売か任意売却かの二択に絞られます。
さらに任意売却の手続きに入ってからも、決断や書類の準備を先送りにしていれば、競売の入札期日が容赦なく到来し、市場価格より大幅に安い価格で強制的に家を失うことになります。
不都合なことほど、最優先で前倒しにして対処しなければなりません。
早く動けば動くほど、傷口は小さく、選べる解決策は多く残されます。
35年の間には、何が起きても不思議ではありません。
大切なのは、起きてしまった想定外の事態を悔やむことではなく、「起きてしまった現実」を認めて即座に次の手を打つことです。
住宅ローンの返済に少しでも不安を感じたり、滞納の兆候が出たりしたときは、決して問題を先送りにせず、専門家にご相談ください。
早い段階であればあるほど、生活の再建に向けた有利な選択肢を一緒に見つけ出すことができます。